「実際にどんな企業がCHROを設置しているのか」 「自社にCHROは必要なのか」 「CHROを置いた企業は何が変わったのか」
人的資本経営の義務化以降、CHROへの関心は急速に高まっています。しかし実際にどんな企業がCHROを設置し、どんな成果が出ているのかは、意外と情報が少ないです。
本記事では、CHRO設置企業の事例を業種・規模・設置背景別に解説します。
1. 日本企業のCHRO設置状況
日本企業のCHRO設置率は、欧米と比較してまだ低い水準にあります。米国では大手企業の90%以上がCHROを設置しているのに対し、日本の上場企業では設置率はまだ数十%程度にとどまっています。
しかしこの状況は急速に変わりつつあります。2023年の人的資本情報開示義務化を機に、「人事をわかる経営幹部」を置く必要性を認識した企業が増え、CHROの設置・採用が加速しています。
特に顕著なのは以下の3つの層です。
スタートアップ・ベンチャー:シリーズB以降の組織拡大フェーズで、採用・文化・制度をゼロから設計できるCHROへの需要が急増しています。
DX推進中の大手企業:テクノロジー人材の獲得・育成・定着を戦略的に進めるため、従来の人事部長に代わるCHROを外部から招聘するケースが増えています。
グローバル展開中の企業:グローバル基準の人事制度導入や、海外拠点との人材戦略の統合を担うCHROへの需要が高まっています。
2. CHRO設置企業の3つのパターン
CHRO設置企業を観察すると、大きく3つのパターンに分類できます。
パターン①:外部からCHROを招聘するケース
最も多いパターンです。社内の人事部長や人事責任者ではなく、外部から経験豊富なCHROを招聘します。特にスタートアップや変革期の大企業でこのパターンが多く見られます。
メリット:外部の知見・ネットワーク・変革推進力を即座に取り込める。 デメリット:社内文化・政治の理解に時間がかかり、最初の1〜2年は信頼構築に相当のエネルギーが必要。
パターン②:社内の人事部長をCHROに昇格させるケース
既存の人事部長やHRディレクターをCHROに昇格させるパターンです。社内への信頼が高く、スムーズな移行ができる反面、変革推進力が弱くなりがちです。
メリット:社内の信頼関係・文化・事業理解をすでに持っている。 デメリット:「人事部長の延長」になりやすく、経営視点への転換が不十分なケースがある。
パターン③:CFO・COOなど他の役員がCHROを兼務するケース
スタートアップの初期フェーズや、組織規模がまだ小さい企業でよく見られます。CFOやCOOが人事領域も兼務し、組織が一定規模になった段階で専任のCHROを採用するケースです。
メリット:経営視点で人事を動かせる。 デメリット:人事の専門知識が薄く、採用・労務・制度設計の細部が手薄になりがちです。
3. 業種別CHRO設置事例
テクノロジー・IT業界
テクノロジー業界はCHRO設置率が最も高い業界の一つです。エンジニア採用の激化、リモートワーク対応、グローバル人材の獲得など、人事課題の複雑さが増しているためです。
大手ITプラットフォーム企業では、エンジニア採用戦略の高度化を目的にCHROを設置。採用ブランディングの強化と報酬制度の見直しにより、採用競争力が大幅に向上した事例があります。
またSaaS系スタートアップでは、シリーズCの資金調達後にCHROを採用し、急拡大する組織の文化形成と評価制度設計を主導。1年以内に組織の一体感が向上し、エンゲージメントスコアが大幅に改善した事例も報告されています。
製造業
製造業でのCHRO設置は、主にDX推進と人材不足対応を背景としています。
大手製造業では、デジタル人材の採用・育成を経営の最優先課題と位置づけ、外部からCHROを招聘。全社的なリスキリングプログラムを設計・実行し、デジタル人材の内製化に成功した事例があります。
また中堅製造業では、高齢化による技能伝承と若手採用の両立を課題として、CHROを設置。ベテラン社員の暗黙知を形式知化するプログラムと、若手向けのキャリアパス設計を同時進行で推進した事例もあります。
金融業界
金融業界では、フィンテックへの対応と人材のデジタルシフトを背景にCHROを設置するケースが増えています。
大手銀行では、テクノロジー人材の採用強化と既存行員のリスキリングを同時に進めるため、外資系金融機関でのHR経験を持つCHROを招聘。ジョブ型雇用への移行を主導し、テクノロジー人材の採用競争力が向上した事例があります。
スタートアップ・ベンチャー
スタートアップでのCHRO設置は、組織拡大フェーズへの対応が主な背景です。
シリーズBのHRテックスタートアップでは、社員数が50人を超えたタイミングでCHROを採用。それまで場当たり的だった採用・評価・オンボーディングを体系化し、1年間で採用充足率が大幅に向上、離職率も低下しました。
またシリーズCのECスタートアップでは、IPOを見据えた組織ガバナンスの整備を目的にCHROを設置。コーポレートガバナンスコードへの対応と、上場後を見据えた人事制度の整備を主導した事例もあります。
4. CHRO設置によって何が変わるのか
CHRO設置前後で企業に起きる変化を整理します。
変化① 人事が経営会議の議題になる
CHROが経営会議のメンバーになることで、人材・組織課題が経営の中心議題として扱われるようになります。従来は「人事部からの報告事項」だったテーマが、「経営判断が必要な戦略課題」として位置づけられます。
変化② 採用の質と速度が上がる
CHROが採用戦略を経営レベルで統括することで、採用の優先順位・予算・方針が明確になります。「どんな人材を採るのか」「なぜその人材が必要なのか」が経営戦略と連動することで、採用の質と速度が上がります。
変化③ 組織文化が意図的に設計されるようになる
CHROがいない組織では、企業文化は自然発生的に形成されます。CHROが設置されると、どんな文化を作りたいのかを意図的に設計し、採用・評価・行動規範などを通じて文化を意図的に形成できるようになります。
変化④ 人材投資のROIが見えるようになる
CHROが人材投資のROIを定量的に測定・報告する仕組みを構築することで、「人材への投資がどれだけの効果をもたらしているか」が見えるようになります。これにより人材投資の意思決定が感覚から数値ベースに変わります。
5. CHRO設置に失敗する企業の特徴
CHRO設置が機能しないケースには、共通したパターンがあります。
失敗パターン① 名ばかりCHRO
肩書きはCHROでも、経営会議への参加権限がなく、予算決裁権もない。実質的には「人事部長と変わらない」状態です。CHROの権限と責任を明確に定義せずに設置すると、このパターンに陥ります。
失敗パターン② CEOとの連携不足
CHROとCEOの関係性は、CHROの機能度を左右します。CEOが人材戦略の重要性を理解していない、またはCHROへの権限委譲が不十分な場合、CHROは機能しません。
失敗パターン③ 既存の人事部門との摩擦
外部からCHROを招聘した場合、既存の人事部門との摩擦が起きることがあります。「なぜ外部から連れてきたのか」「自分たちの仕事が否定された」という感情的な反発が、変革推進の妨げになるケースがあります。
失敗パターン④ 短期成果を求めすぎる
人材・組織への投資は、財務投資と異なり成果が出るまでに時間がかかります。「CHROを採用して3ヶ月で変わらなかった」という短期的な評価でCHROの活動を制限すると、中長期的な成果が出なくなります。
6. 自社にCHROが必要かどうかの判断基準
自社にCHROが必要かどうかを判断する基準を提示します。
① 人材課題が経営課題になっているか 採用難・離職率上昇・組織文化の崩壊など、人材課題が事業成長の足かせになっているなら、CHROが必要なサインです。
② 人事部長が経営会議で発言できているか 人事部長が経営会議で発言できていない、またはCEOが人事部長の意見を経営判断に反映していないなら、CHROが必要です。
③ 人的資本情報の開示に対応できているか 上場企業または上場準備中の企業で、人的資本情報の開示対応が十分でないなら、CHROの設置を検討すべきです。
④ 組織が急拡大しているか 社員数が50〜100人を超えるフェーズ、または急速な組織拡大が予想されるなら、CHROを設置するタイミングです。
まとめ:CHROは「置くかどうか」ではなく「いつ置くか」の問題
人的資本経営の時代において、CHROは一部の大企業だけのものではありません。成長を目指すすべての企業にとって、CHROの設置は「置くかどうか」ではなく「いつ置くか」の問題になっています。
CHRO Naviでは、CHRO候補人材の転職支援と、企業向けのCHRO採用支援を行っています。CHROとしてのキャリアを目指す方も、CHROを採用したい企業担当者も、まずはお気軽にご相談ください。


